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創刊号(2013/9/1) 

福島県仮設住宅の今

2013年09月01日 08:44 by ahha
2013年09月01日 08:44 by ahha

福島県楢葉町は原発20キロ圏内にあり、除染作業が最も遅れている地域のひとつである。楢葉町で生活していた人々の多くは農業を営み、広い土地でのびのびと暮らしていた。しかし今、彼らが暮らしているのはいわき市にある仮設住宅である。

3.11の大地震が発生してから2年半が経とうとしている。現地では、地震発生当時活発だったボランティアセンターの活動も減り、海辺の瓦礫は取り除かれつつある。

仮設住宅に住むおばあさんたちは集会所で他愛もない会話で談笑しているが、そこでの生活の苦労を訪ねると、部屋が狭いことの不便さもさることながら心的ストレスが大きいようだった。中でも生活音に気を遣うストレスが大きい。もともと隣近所という存在がないくらい広い土地で生活していたから、自分や他人の立てる生活音に気を遣う生活は初めてなのだ。

震災の報道も減り復興は順調に進んでいるかのように見えるが、実際はそう言い切れない。

8月初旬、学生は夏休みを満喫し、実家を離れている人々がお盆にむけて帰省の準備をする頃だ。一方で、「最近は家に帰りたくない、がっかりするだけだから。」仮設住宅に住む女性の一言である。楢葉町から避難してきている人々は、日帰りの一時帰宅のみ許されている。もちろん家に帰りたい思いは全ての仮設住宅に住む人が持っているが、終わりの見えない避難生活をしているうちに草に囲まれていく自宅を見かねて帰りたいとさえ思わなくなってしまうのだ。本当の意味ではまだ帰ることのできない家に一時帰宅して目に入るのは成長した植物。それでもお盆には一時帰宅するべきかと考えている。

多くの人々が平和な日常を送っている同じ瞬間に、辛くても互いに支え合いながら生活している東北の人々の存在があることを忘れてはならない。地震発生から時が経ち東北の現状を報道するニュースが減った今、被災者が感じるのは社会から忘れられ除けものにされていく孤独感である。被災者もそうでない人も、同じ日本人として東日本大震災という共通の過去を持っている限り、過去を忘れること、現状を知らないことは罪なことではないだろうか。

震災を忘れないため、そして被災者に社会からの疎外感を感じさせないために、今でも多くの人が東北に足を運んでみるべきである。

東京医科歯科大学 医学部保健衛生学科検査技術学専攻  瀬田安奈

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