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第2号(2013/10/3)

夢の国の「プロ意識」

2013年10月02日 23:34 by mimy6522
2013年10月02日 23:34 by mimy6522
 

 

 

 

 

 

 

 最近、残念なニュースをよく目にする。「バカッター」などという呼称を聞いたことがあるかも知れないが、例えば飲食物を扱う店の店員が商品を食べる様子や、商品を陳列している冷蔵ケースに頭を突っ込んで涼んでいる場面を、ツイッターに投稿するというものである。私は、「プロ」として働くために最も必要なものは「プロ意識」であると考えているが、プロ意識とは対極にあるこれらの行為には呆れるばかりだ。プロとしての責任感や徹底ぶりがプロの仕事を生む。誰しも将来的には職を持ち、何かしらのプロとして働くことになる。筆者の周りにも、アルバイトという形で既に給金を稼いでいる人は多い。「プロ意識」について今一度、考え直してみて欲しい。

 

 誠に私的な話になってしまって申し訳ないが、この夏休み、九州からはるばる東京・千葉まで、友人らと二泊三日の旅行に出かけた。メインの目的はディズニーシーとディズニーランド。それぞれ1日ずつかけてたっぷりと堪能し、ただ単純に「夢の国」を楽しんで来たのではあるが、一方で、その夢の国の「プロ意識」に感動させられた面もあり、今回はこの場を借りて紹介してみたいと思う。

 

 夢の国たる所以として、このパーク内に世界中の風景が凝縮されているかのような街並みづくりが挙げられるだろう。シーもランドも、それぞれ7つのエリアに分かれており、そのエリアの1つ1つが全く異なった様相を呈している。地中海の港町、おしゃれな西洋街、草木生い茂るジャングル、エキゾチックなイスラーム圏、近未来的な宇宙ステーション、海藻揺らめく海の底など、100メートルも進めばさっきまでとは全く違った世界に足を踏み入れている。場所も時代も様々、ただ1つ共通しているのは、その「徹底ぶり」である。

 

この世界観を創り上げるためのこだわりが随所に見られ、大変興味深い。地面の素材や色遣いに始まり、アトラクションの種類、ショップやレストランの内装はもちろん、植えられている植物やキャストの衣装、かかっているBGM、ワゴンやトイレ、ゴミ箱の外観にまで、細かく配慮がなされている。

 

そしてこの創り上げた世界観を壊さないための工夫がまた面白い。掃除が行き届いていてゴミひとつ落ちていない、などというのは有名な話だが、パーク内からは決して外の建物が見えない、現実に引き戻す"鏡”や"時計”の設置が極力抑えられている、消火器や係員通路がなるべく風景に溶け込むようにデザインされている、などは今回行ってみて初めて気付いた事柄である。

 

加えて、こういった設計以外の工夫も欠かせない。例えば、あれほど広大で入場客も多いパーク内で、迷子の放送がかからないことを疑問に思った方はいないだろうか。実はこの迷子の放送も現実に引き戻す契機になるとして実施されていない。迷子は大勢のキャストが無線連絡によって捜し出すのだそうだ。落とし物・忘れ物に関しても無線連絡が活躍するのだが、ここで私は大胆な工夫に驚かされた。あるアトラクションに乗り込み、安全バーを下ろし、キャストが安全確認をしながらアトラクションの説明をしていた。「恐ろしい罠なんかもあるかも知れません。」「では気を付けて、いってらっしゃい!」いよいよ出発というとき、ひとりのキャストがアトラクションを挟んで反対側のキャストに向かって声を上げた。「ミッションです、白色のiPhoneを見つけてください!」順番を待つ人々の話し声やBGM、キャストが人々を整列させる声に紛れて、他のゲストには聞こえていなかったようだが、私や周りの数人の耳には届いた。ここからは私見になるが、まさかイベントの一環として携帯電話を探せというわけではあるまいし、このアトラクションを楽しんだゲストの落とし物を探せというキャスト同士の伝令だったのではないだろうか。無線を使うよりも効率的で、その内容がゲストに聞こえないように耳打ちするより実は"現実味”が薄い。見事にこのアトラクションの世界観に馴染んでいた。

 

 

 こうしたキャストの対応に関するこだわり、つまりはプロ意識もディズニーの魅力であり、夢の国たりえる重要な要素であろう。接客が懇切丁寧なことは今時珍しいことではない。ここで特筆すべきはキャスト全員の笑顔であると思う。この徹底ぶりは筆舌に尽くしがたい。どのキャストに写真撮影を頼んでも、道を尋ねても、満面の笑みで対応してくれる。何人のゲストを裁いているのか分からない長蛇の列の先の飲食店レジでも、眩しい笑顔が待っている。日が落ちても疲れを感じさせないキャストの笑顔はまさしく夢の国の産物と言えるだろう。 

 

 たくさんの工夫を徹底的に凝らした結果として、ゲストに現実離れした感覚、まさに「夢の国」にいるかのような感覚を楽しんでもらうことができる。徹底されたプロ意識によって、ディズニーリゾートは「夢の国」として機能する。正直この旅行で懐は寒くなったが、現実世界の金銭や時間には換算できない素敵な体験ができたと思っている。目の当たりにした「プロ意識」はただの思い出にしているだけではもったいない。自らの「プロ意識」、世間の「プロ意識」を見つめ直す契機としてここに掲げる。

 

九州大学法学部 杉山 沙貴

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